講演会“許し難きを許す~父 加納莞蕾と下市 豊島弘から学ぶ”に行ってきました

書き手プロフィール
矢野竜広
1980年生まれ。会社員コピーライター、放送作家を経てフリーランスに。2013年、住み慣れた東京を離れて鳥取県へ。自宅にオフィスヤノを構え、WEBデザイナーの妻とともに夫婦で在宅ワークにいそしむ。無類のビール好き。 ブログはビアエッセイ・ドットコム。ツイッターのフォローはこちらから。
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先日、中山温泉生活想像館わくわくホールで、
“許し難きを許す~父 加納莞蕾と下市 豊島弘から学ぶ”
という講演会が行われました。
第二次世界大戦と大山町の意外な接点を今回、
知ることができたと同時に、
色々と考える機会を与えてもらいました。

とある海軍少将と従軍画家の出会い。

第二次大戦後、フィリピンの首都マニラから南に約30キロの丘陵地にあるニュー・ビリビッド刑務所、通称モンテンルパ刑務所に108名の日本兵が収容。実際にあったかどうか極めて疑わしいうえに無罪を証明する手立てのない事件によって、多くの兵士が一方的に死刑宣告されてしまいました。

その一人が古瀬貴季という島根出身の海軍少将。彼は多くの日本兵が無実を訴えるなか、事件の真偽ではなく日本軍の指示系統について滔々と述べ、上官である自分の有罪を全面的に認めたそうです。古瀬海軍少将は郷里の島根に一度戻り、そこで彼の運命を変える人、加納莞蕾(かんらい)氏に出会います。

安来出身の加納莞蕾は小さいときから絵を描くのが大好きで、画家になる道を模索。戦前には朝鮮半島に渡って、従軍画家として中国山西省における戦争の状況を描きました。終戦とともに帰国した莞蕾氏はその職能を活かし、戦死した郷里の軍人の肖像画を描く活動をするなかで、古瀬少将に出会うことになります。

古瀬少将の泰然自若とした生き方に深い感銘を受けた莞蕾氏は、裁かれるため、つまり死ぬために一人郷里を離れる古瀬少将の姿を見て、自分も東京に出向いて日本人戦犯の釈放に尽力することを決意します。

莞蕾氏は先の見えない厳しい嘆願活動の癒しとして幼子を一人帯同させました。それが、今回講演に来てくれた加納佳世子さんです。

4年にわたる嘆願活動と大統領の決断。

上京当初は「そんなことができるわけない」と一蹴されていましたが、古瀬少将たちの命を救いたいという一心で莞蕾氏は娘の佳世子さんを背負って東京の在日フィリピン代表部に通い、キリノ大統領の腹心である大使の肖像画を描く機会を得ることに成功、その甲斐もあってついには大統領府から返書が届くまでになりました。島根に戻ってからも活動を続け、4年間で嘆願書は合計300通を超えたそうです。

嘆願活動をするなかで、莞蕾氏を大きく動揺させたのが嘆願する相手、キリノ大統領の境遇でした。大戦中、マニラの戦いで、妻アリシアと5人の子のうち3人、他に5人の親類が日本兵に殺害されていたのです。この重い事実に向き合いながら、莞蕾氏はキリノ大統領への書簡のなかでこう書きます。

「許し難きを許す」という奇跡によってのみ人類に恒久の平和をもたらし、「目には目を」ということでは決して達成し得ないということを、これまで以上に強く感ずる次第であります

そして、最終的にキリノ大統領はモンテンルパ刑務所に収容された全ての日本人戦犯に対し、昭和28年7月に「私から憎悪を受けつがしめない」と恩赦令を出すに至ったのです。

大山町出身者が残した手記からわかること。

実はこのモンテンルパ刑務所から釈放された日本兵のなかに、大山町下市出身の豊島弘さんがいました。加納佳世子さんも後から同じ山陰出身者がいたことを知り、とても驚いたそうです。

豊島弘さんは手記を残していて、講演とは別にじっくり読ませていただきましたが、死刑囚の間で減刑や恩赦への期待が生まれていたなか、突如行われた容赦ない14名の死刑執行後に死刑囚たちがひどく動揺する様子などが克明に綴られており、深く印象に残りました。妻への手記にはこんなことも綴られています。

しかし今さら仕方がない。今後の命運を待つのみだ。私は覚悟はしているけれど、最後まで希望を捨てないつもりだ。ただ心残りがするのは残る貴女を始め、老いたる母、また私の関係者に対してのことだ。

10代20代の頃、戦争に関する本や報道に触れても特に感じることのなかったことを今の30代後半では感じます。今回の話だと、自分は妻や子どもが殺されても相手を許せるのか?尊敬する人のためとはいえ家庭生活全てを犠牲にして自分は行動できるのか?無実の罪を受け入れて運命に身を委ねるとはどういうことなのだろう?

色々考えさせられる機会でした。今後も自分が住んでいるこの地であったことを学んでいきたいと思います。

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