人口の少なさがもたらした悲劇。
僕は道端に落ちた片方だけの手袋フェチである。
無残にもアスファルトに置き去りにされた手袋(片方だけ)だけが持つ哀愁と滑稽さをカメラで記録し続けてきた。ところが、こちら鳥取に来て以来、そんなシロモノを目にしなくなった。上質なグローブは言うに及ばず、軍手レベルにグレードを下げてもとんと見かけない。そして、あるときに気付いてしまった。東京都は人口1300万、鳥取県は60万。人口が少ない=手袋(片方だけ)を落とす人の数も少ないという事実に。
さらに、店の数が少ない理由ももしや人口の少なさに起因するのではないか?ということに気付いてしまった。我が家は車が一台しかなく、妻が車で外出した途端、外食生命が絶たれる。歩いて行ける範囲に店がないのだ。家でむせび泣きながら即席ラーメンをかきこむ他なくなる。
ところが、そんな我が町に新しいお店ができるというので息子を連れて行ってみた。
場所は中山温泉横の店舗。なお、息子が全く逆の方向を指さしているのは、大好きなクレーン車を見つけたためである。
掃除に次ぐ掃除。息子を手伝わせるも…
お店の扉を開けるやいなや、開店準備にいそしむ皆さんの姿が飛び込んできた。
聞くともう長いこと掃除をし続けているようだった。キッチンの中をはじめ、テーブルや椅子、壁や床、窓ガラスなど手分けして作業をしている。皆さんは中山温泉がある下中山地区の地域自主組織「楽しもなかやま」のメンバーで、5月1日(木)にオープンするコミュニティ食堂「tanocy(たのしー)」の準備に追われていたのだ(僕が「楽しもなかやま」のメンバーであり、「tanocy」というネーミングを考えた張本人であることが発覚するとやらせ感が半端なくなってしまうので胸にしまっておこうと思う)。
猫の手も借りたそうなくらい大変そうだったので、猫の手よりは、と2歳の息子も手伝わせることに。
おお!予想の3割増し戦力になることが発覚。そして、その2分後。
飽きるのが早過ぎて、親の顔が見たいくらいだった。
冷凍庫の横に満足そうな表情を浮かべる男の姿が。
さて、皆さんに聞いてみたところ、以下の基本情報が得られた。
●ランチは11時~14時、カフェは14時~17時。
●ディナーは金・土のみ17時~21時半(LO21時)。
●定休日は月・木。
●ランチのメニューはカレー。旬野菜食べ放題付で600円。
●ドリンクバーもあり。
最初のうちはカレーだけだそうだが、野菜食べ放題が付いて600円は健康にもいいし安い。さらに、ドリンクバーはご飯を食べた人なら200円、ドリンクバーだけで注文しても300円とこれまたリーズナブル。そして、何よりビッグニュースなのが金曜と土曜に居酒屋をやってくれるという点。この嬉しさは嗚咽級である(泣き過ぎかもしれない)。店主を務めるのは、御来屋港で定置網漁をする鳥本さん。
設立総会のときの写真がいい感じだったのでこちらを使用させていただく。やー、本当に楽しみ。
しばらくtanocyの中にいて、「あれ、これは何かに似ているぞ」と感じて思い至った。学園祭の前のクラスの雰囲気に似ているのだ。誰かが「飲みながらスポーツ観戦したいな」と言うと、「プロジェクターで日本代表の試合を映そうよ!」と盛り上がる。パブリックビューイング、カラオケ、ビアガーデン、飲み放題メニューなどなどその場の思いつきが次々に実現へと動き出す。そして、「楽しもなかやま」会長は満足そうな表情を浮かべるのだった。
人口が少ないということは、一人ひとりが目立ちやすいということであり、意見が通りやすいということでもある。つまり、やりたいことがやれる。手袋(片方だけ)が落ちてなくても我慢しなければならない。そう心に誓った午後であった。