山陰は日本の最前線かもしれないと取材中に感じる*ライターの移住月記

書き手プロフィール
矢野竜広
1980年生まれ。会社員コピーライター、放送作家を経てフリーランスに。2013年、住み慣れた東京を離れて鳥取県へ。自宅にオフィスヤノを構え、WEBデザイナーの妻とともに夫婦で在宅ワークにいそしむ。無類のビール好き。 ブログはビアエッセイ・ドットコム。ツイッターのフォローはこちらから。
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2年前に下の子が生まれてから完全在宅の執筆案件を中心に仕事をしていた。
そんな次男はもうすぐ2歳で、上の子はもうすぐ5歳。
2人の子どもを保育園に預ける生活も1年が経ち、だいぶ落ち着いてきたので、
最近は外に出る取材案件の仕事を少しずつ増やし始めている。
そこで感じることを今月は書いてみたい。

木を知り尽くした職人が考えていること。

先日、大山町にある株式会社創伸の社長で宮大工でもある北村裕寿さんに取材を行った。

以前、幼少期から奈良で宮大工の修業を積み、鳥取に戻ってくるまでの過去の話をがっつり聞いていたので、今回は最近の仕事状況や伝統構法にこだわる理由などについて聞いた。

そこで驚いたのが、とにかく時間のスケールが普通の人とは全く異なること。コンクリートではなく石を使って施工することで「千年経っても劣化しない」とか、千年前の「宮大工の意図が読み取れて会話をしている感覚」とかそういう話がポンポン飛び出す。自身が手掛けた渾身の新築住宅について「300年は持つと思いますよ」と事もなげに話していた。極め付きは伝統構法の未来を聞いたときのこと。

効率重視で大量の家が建てられていることを、「この流れを止めることはできない」とし、最終的に立ち行かなくなってしまったときに北村さんは「うちらのやり方に戻るしかないと思う。そのときのために伝統をつないでいるという感覚がある」と話してくれたのだ。そのベースには木をモノではなく、大切な命と考える北村さんの自然観がある。木をモノと見ればラクである。が、命と考えて大切に扱うから今の時代に逆行した非効率な施工になる。

この話を聞いて、とある人のことを思い出した。それは、同じく大山町にある「たまご屋工房風見鶏」を運営する小川養鶏場の小川社長。

鶏にストレスを与えないことへの執念。

観光サイトの取材で小川社長にインタビューしたときに印象的だったのは、鶏をまるで人のように扱うということだった。

エサは防虫・防カビ処理をしていないトウモロコシや、境港のイワシを使った65%という高い濃度の魚粉を与えていた。また、大山町の環境に合わせてあげるため生後2~3日から面倒をみる。もちろん、そんな小さいときに連れてきても卵を産むわけではなく、世話の時間と手間が増えるだけ。でも、鶏の生育を第一に考えているからそうしていると言うのだ。さらに、自然や四季が感じられる開放鶏舎にこだわる。これも手間ばかりかかるため採用していない養鶏場も多いなか、小川社長は「人間だって窓のない部屋でずっと生活するのは嫌ですよね」とサラッと言ってのけるのである。

大山町で腰を据えて事業を営む北村さんと小川さん。全く別の仕事をしながら、自然に対する深い畏敬の念を持っている点において両者には共通したものがあると僕は感じた。こういった価値観はかつては古いものだったかもしれないけど、様々な面で効率主義が立ち行かなくなってきている今、むしろ先進的なものになりつつある。中世から脈々と続くようなクラフトワークがここのところ脚光を浴びている現象に似ているかもしれない。

遅れているのではなく、むしろ先頭を走っている。

毎月、僕は医療系専門誌の取材で山陰の大学病院や市中病院を訪れる。そのインタビューのなかで「鳥取県は高齢化地域として世界の先頭集団を走っている」という言葉にハッとしたことがあった。いわく「世界でも類を見ない超高齢社会の日本の中でも山陰の山間部は特に高齢化率が高い。つまり、我々は人類が経験したことのないところにいるんです」と。

こののまど間ブログで町内の町づくり団体を取材しているときも、田舎だからこそ先頭を走っていると感じた。町に住む人が何を課題と捉え、どんな組織で、どう解決していくのか。最先端の事例がここにはある。

他にも、取材をしていると山陰が日本をリードしている分野に出合う。建築系メディアで米子の設計事務所を取材した際には、工務店を介さず施主が職人達と直接契約する建築手法の歴史をみっちり聞いた。現在、全国に広がっているがスタートは25年前の米子だった。またつい最近、醸造所の取材で訪れた島根県江津市の石見麦酒は、一桁安い初期投資で開業できるノウハウを確立。昨年1年間だけで北は北海道から南は種子島まで、全国で20もの醸造所が石見麦酒を訪れて“石見式”を採用してオープンした。

ちなみに、高知の山奥に住むブロガー、イケダハヤト氏が営む会社の名前は「日本の田舎は資本主義のフロンティアだ」だそう。僕も山陰は遅れた地なんかではなく、むしろ日本のフロンティアなのではないかと思うのである。

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鳥取県大山町にある田舎暮らしの入門道場「のまど間」からリアルな田舎暮らし情報をお届けします。

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