夜が異様に怖くて*ライターの移住月記

書き手プロフィール
矢野竜広
1980年生まれ。会社員コピーライター、放送作家を経てフリーランスに。2013年、住み慣れた東京を離れて鳥取県へ。自宅にオフィスヤノを構え、WEBデザイナーの妻とともに夫婦で在宅ワークにいそしむ。無類のビール好き。 ブログはビアエッセイ・ドットコム。ツイッターのフォローはこちらから。
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最近、大山町ではホタル狩りを楽しむことができる。
田舎ならではの極上のエンターテインメントだ。
お酒を飲める店や遅くまで遊べる店がない反面、
田舎にはホタル以外にもたくさんの楽しみがある。
夜の帳が下りた後の圧倒的かつ原始的な漆黒。
移住当初は恐ろしく感じたものだ。

漁火、星、カエルの鳴き声、そして舞うホタル。

5月末から6月の上旬は、特に大山町の海側においてホタルのシーズンだ。
僕もこの時期になると、風呂上りにホタルがいるかどうか偵察に出かける。そして、飛来を確認するや家族に伝えてみんなで出かける。
ただ、うちから歩いて行けるホタルスポットがここ2年ほど非常に渋い。3年前はたくさん飛んでいたのに、去年も今年もチラホラとしか見かけない。

じゃあ、他の場所はどうなんだ?と先日、一家で車に乗ってホタル狩りに出かけた。すると、めちゃめちゃいるではないか。てっきり町全体でホタルの数が減ったのかな?なんて考えてしまったけど、思い違いだった。

遠く日本海にイカ釣り船の漁火が霞み、空を見上げると幾千の星、田んぼではカエルの合唱がこだまする。そんなシチュエーションの中で目にするホタルのなんと幻想的なことだろう。頬を撫でる夜風も心地よく、場所を変えて小一時間くらいホタル狩りを楽しんでしまった。

上の子は夜に出かけるのが非日常で楽しいらしく、終始テンションMAX。もうすぐ2歳の下の子は不思議そうにホタルを眺めているのが印象的だった。

暗闇からのプレッシャーで夜の行動を自粛。

こうやって今では田舎の夜を楽しんでいるものの、最初の出会いは鮮烈だった。

僕が鳥取に移住したのは2013年のことなのだけど最初の居住地は米子だった。米子には近所に飲食店や24時間営業のお店やコンビニもあった。東京で生活しているのと感覚的にあまり変わらず、「なんだ、米子って板橋区とか練馬区みたいな感じだなあ」と拍子抜けしていた。

ところが、その後、大山町に引っ越したら生活が一変した。田んぼ、畑、川、森、古民家。まずもって景色が違う。人も少ない。お店もほとんどない。食材をもらったり、人と人のつながりが濃い。そして、夜が圧倒的に暗い。

立ち並ぶ家々が暗くてよく見えない、という光景を僕はたぶん人生で見たことがなかった。家々というのは夜も街灯で照らされるものだったのだ。するとどうだろう、「夜中は外に出てはいけないよ」と暗闇から強い圧を受けているような感覚を覚えた。夜にビールが飲みたくなって、家から酒屋に買い物に行こうと思いついても、どういうわけか「まあ、止めておくか」となってしまうのである。

これが自分でもすごく不思議だった。神社でふざけると不謹慎な感じがするからふつう控えるけど、実にその畏怖の感覚に近かった。

夏も冬も。田舎では夜な夜なショーが行われる。

そんな田舎の夜の洗礼を受けた僕だけど、家に引っ込んでばかりではもったいないことにすぐ気付いた。
ホタル、漁火、星空もそう。また、カエルだけではなく虫の声も趣がある。虫の声と言えば秋のイメージだけど、田舎では真夏のうちから聞こえる。星で言うと、東京では冬のイメージだけど田舎では絶対に夏。夜風が心地よいし、天の川が見えるし、流れ星もよく目にする。

花火も大きい規模のものはないけど、地元密着の小ぢんまりとしたサイズ感がすごく良い。人がそこまで多くないから会場は空いているし、行き帰りの車も渋滞しない。手持ち花火も都会の住宅街では最近なかなかできないけど、大山町の人からしたら「え?なんで花火できないの?」というレベルだろう。花火と同じ時期の楽しみと言えば、昆虫採集。うちの前は絶好の採集ポイントになっているらしく、夏になると子ども達の歓声がよく聞こえる。街灯の下で立派なカブトムシを見つけたときは大興奮だった。

夏だけではない。冬の夜だって楽しい。薪ストーブがあれば読書やお酒の時間がワンランク上質になる。そこにカニ鍋なんかがあったら最高。木々に積もった雪が月明りを反射してぼやっと明るい夜は空想的ですらある。

そう、田舎の夜は極上のエンターテインメントであった。畏怖の気持ちを抱きつつもショーを楽しもうではないか。

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鳥取県大山町にある田舎暮らしの入門道場「のまど間」からリアルな田舎暮らし情報をお届けします。

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